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2018年6月20日(水)

行動観察と社会心理学

第95回 どうすれば上司-部下間のコミュニケーションはよいものになるのだろうか-社会心理学的視点で素朴な疑問に向き合う⑥-

 4年に一度のサッカーワールドカップがロシアで開幕した。我らが日本代表も予選を勝ち抜いて出場してくれる。大会直前の監督解任もあり、チームとしてのまとまりや勢いに不安を隠せない状況にあるが、国民全体がサポーターになれる機会を作ってくれた選手たちには、是非とも悔いの残らない戦いを繰り広げて欲しいものだ。

 ところで、日本代表の監督を解任した理由について尋ねられた記者会見の場で、サッカー協会会長は、「選手たちとのコミュニケーションや信頼関係の部分が多少薄れてきた」と説明していた。選手たちとのコミュニケーションのすれ違いが求心力の低下を招き、このままワールドカップ本戦に臨むのでは禍根を残すという判断が働いたようである。いずれにせよ、コミュニケーションのすれ違いという問題は、いずこの職場の上司-部下の間にも多かれ少なかれありそうなことである。上司-部下という独特の関係にあって、そのコミュニケーションを適切で信頼のおけるものにするには、どのようなことが大事なポイントになってくるのだろうか。

 部下の立場で大事になってくるのはアサーティブなコミュニケーションである。これは、本コラム第22回に紹介したように、自分の職責・役割で、上司に伝えるべきことは、上司の感情を害さないように配慮したうえで、明快に伝えるコミュニケーションの取り方である。では、上司の立場で気をつけるべきポイントはどのようなことだろうか。

 上司の立場に立つと、自ずと部下よりも自分が偉い、強い立場だという思いに駆られるものである。それと同時に、部下の失敗は、自分の管理責任を問われる事態につながりかねないという思いが脳裏をかすめることもあるだろう。その結果、どうしてもいわゆる「上から目線」の言葉遣いになりがちである。もちろん、経験豊富だからこそ昇任しているのであり、部下もそれは先刻承知のうえだから、上司の側が「上から目線」の言葉遣い自体を問題視する必要はないだろう。むしろ、上司が部下に丁寧な言葉遣いをする方が気持ち悪がられる可能性は高い。しかし、言葉遣いの背後にある上司の基本的な態度を部下は気にするものである。そして、その上司の態度にすれ違いを生む要因が潜んでいる。

 では、部下とのコミュニケーションのすれ違いを生むのはいったい何なのだろうか。いくつかの重要な要因が考えられるが、第一には、部下の意見に耳を傾けようとしない態度をとりがちになることがあげられるだろう。自分の方が経験豊富だから、より適切に判断できるとの思いに加えて、忙しい毎日の切迫感もあって、部下の意見をおざなりに聞いたり、ないがしろにしたりして、「とにかく自分の指示通りにしろ」という態度をとってしまいがちなものである。部下も人間である。自分の意見や発言を軽視されて気分がよいはずもない。人間の感情システムは非常に鋭敏で、即座に反応するとともに、不合理で理不尽な言動をとることにつながりやすい。部下は上司に心理的反発を覚え、その指示にいやいや従うようになる。そのうち指示を受けてもどうしても嫌なことは従わなくなる。

 次にすれ違いを産みやすいのは、失敗を責めるときに、部下を「くさして」しまうことである。上司の役割として、部下の失敗を正確に把握したり、注意したり、適切な善後策をとるようにしていくことが求められる。誰でも失敗はしてしまう。大切なのは、失敗から何を学ぶかである。失敗の原因を明確にして、今後、どのように対応していけば良いのかについて話し合うことが、部下とのコミュニケーションの核心に来なければならない。ところが、失敗したと報告を受けると、人間だから腹が立つ。つい感情が先走る。「自分も若い頃はよく怒鳴られたもんだ」という言い訳めいた理由も頭をかすめる。というわけで、部下を叱責と言うよりも攻撃して、くさしてしまう。そうすると、部下も人間だから、感情的に非理性的な反応をしてしまう。

 まだまだ理由は挙げられるが、紙幅の都合もあるので、この辺でおさめて、ではどうすればいいのかについても言及しておこう。部下とのコミュニケーションのすれ違いから、上司-部下間の信頼関係が損なわれることで派生する職場の問題として「心理的安全」の低下に気をつけておく必要がある。職場の「心理的安全」が低下すると、現状以上に人間関係が悪くなることを避けようとして、同僚や上司に伝えるべき意見や思いを伝えられなくなる。これによって職場では、互いに余計な気遣いをすることが当たり前になり、堅苦しい雰囲気がたちこめるようになってしまう。これまでにはない何か斬新で奇想天外なアイディアといったものは、たとえ思いついても職場では口に出せないので、知られることもなく、いつのまにか思い出すこともできなくなってしまう。今以上に人間関係を損なって傷つくことだけはないようにしようという思いが、職場の活力を奪い去ってしまう。

 職場の「心理的安全」を高める上司の部下とのコミュニケーションの取り方の核心は、本コラム84回に紹介したように、上司自身が素直に自分をさらけ出す、すなわち、自分だって失敗することはあるし、知っていることにも限界があることを認めるところにある。上司の立場としては勇気のいることであるが、誰もが安心して自分の意見を周囲に伝え、みんなでその話を聞き、失敗してもそこから何かを学ぼうとする職場を作り上げていく第一歩は、上司が素直に自分をさらけ出す勇気を持つことにあるといえるだろう。

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