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2018年1月29日(月)

行動観察と社会心理学

第90回 応援は選手のパフォーマンスを高めるのだろうか-社会心理学的視点で素朴な疑問に向き合う①-

 ピョンチャン・オリンピックの開幕が近づいてきた。国家ぐるみのドーピングが行われていたことへのペナルティでロシアが国家として選手団を派遣できなくなったり、直前になって北朝鮮の参加が決まって韓国選手団が振り回されたりと、政治的な影響を色濃く反映した大会になりそうなのは本当に残念な気もするが、このオリンピックを目指して、必死に努力を積み上げてきたであろう選手たちには、是非とも悔いのないパフォーマンスを示してもらいたいものである。

 スポーツの大会といえば、応援がつきものである。自国の代表選手の頑張りには、まるで自分までもが競技を行っているような気分で声援を送るし、身近に日頃の努力を知っている選手たちであれば、なおさらのこと熱のこもった応援になるものだ。

 ところで、こうした応援は、実際のところ選手たちのパフォーマンスや成績を高める効果があるのだろうか。選手がインタビューに応じる際に、「応援よろしくお願いします」と発言している様子をよく見聞することを思えば、少なくとも選手たちの主観では、応援の効果はあると認識されていると言えるだろう。

 しかしながら、たくさんの応援をもらうことは、選手にとって、ありがたいし励ましになる一方で、期待に応えようとする責任感と緊張感を高めてしまうこともあるだろう。その緊張感が、パフォーマンスを低下させてしまうことはないのだろうか。こうした疑問に対して、科学的な検討を行った研究があるので、その結果を見てみよう。この研究は大阪大学人間科学部の卒業研究として川崎慎也氏が行った研究成果を、阪大教授の釘原直樹教授がその著書「人はなぜ集団になると怠けるのか:『社会的手抜き』の心理学」(2013、中公新書)の中で紹介しているものである。

 この研究では、4つの大学のソフトテニス部所属の選手を対象にして、試合の重要性の高低と応援の有無によって、失点する確率はどのくらい影響を受けるのか比較検討した。まずは、選手たちに、具体的な場面設定を呈示してイメージしてもらい、その場面で失点すると思う主観的な確率を回答してもらった。具体的には、あと1ポイントでゲームを取ることができる場面や、あと1ポイントで試合に勝つことができる場面といった有利な状況、また逆に、ゲームや試合をあと1ポイントで失うという不利な状況もイメージしてもらい、主観的にこの1ポイントを失ってしまうだろうと思う確率を答えてもらった。この主観的回答と合わせて、実際の試合では回答者たちはどんな結果だったのかについてもデータを集めて、応援の効果に関する主観的評価と実際の結果との比較検討を行った。

 主観的な確率に関する結果を見ると、重要な試合であろうがなろうが、応援があった方が失点する確率は低いだろうと選手は思っていることがわかった。すなわち、選手たちは応援によってパフォーマンスが高まる効果はあると感じているという結果であった。しかしながら、実際の試合の結果を分析すると,重要な試合の場合、応援の有無によって失点する率が影響を受けることはなく、重要ではない普通の試合では、むしろ応援があると失点する率は高かったことがわかった。選手が主観的に感じている応援の効果は、実際には見られなかったのである。

 この研究の結果ひとつで、応援の効果は疑わしいといいきることはできないが、社会的促進に関する研究結果と合わせて考えてみると、応援の効果をより深く理解することができるだろう。社会的促進とは、個人単独で課題に取り組む時に比べて、集団状況、すなわち周囲に他者がいる状況で課題に取り組む時の方が、課題の成績は良くなる(課題遂行が促進される)現象を指す概念である。しかし、常に集団状況は促進効果を持つわけではなく、周囲にいる人々の性質と、取り組む課題の性質が組み合わさって、課題成績は複雑に影響を受けることがわかっている。

 応援がある状況は、周囲の他者が支持的な態度を示す場合に該当することになる。この場合、慣れていなかったり不得手であったりする課題に取り組む場合には、周囲の他者が中立的態度を取る状況で課題遂行する時に比べて、良い結果に結びつきやすい。ただし、慣れ親しんだ得意な課題の場合には、むしろ、周囲が中立的態度をとる場合に比べて、劣った結果になってしまうことが確認されている。他方、周囲の他者が評価的・批判な存在である場合には、逆に、慣れ親しんだ得意な課題では良い結果につながるが、不慣れで不得手な課題ではいい結果にはつながらないことも併せてわかっている。

 これらの社会心理学の研究成果に基づいて、応援の効果を考えてみると、応援すれば選手の客観的なパフォーマンスが良くなるとは限らないものの、少なからず影響を及ぼすことは間違いないと言えるだろう。選手のパフォーマンスを高めるような、本当の意味での応援として機能するためには、応援の仕方が意味を持ってくるように思われる。極端な表現になるが、応援するといっても、単にサポート一点張りで甘やかすことになる応援では、選手のパフォーマンスを高める効果は薄いことを社会的促進の研究結果は示唆している。そして、オリンピックに出場するような優れて競技に習熟している選手の場合には、心理的サポートと同時に、きちんと競技に取り組む様子を見守り、評価する姿勢も大事になるといえるだろう。評価というと、批判するネガティブな側面に意識が集まりがちであるが、競技に取り組む様子をしっかり見守り、公正に評価して、良いところは賞賛することも、評価の要諦である。いつも注目して見守りながら、時に本人にとっては耳の痛いことでも伝えるようにすることが大事なのは、スポーツの応援だけでなく、親子関係や上司・部下関係でも同じだと言えるだろう。

 本当の応援をしようと思うなら、しっかり関心を注いで、選手たちの取り組みを見守ることが大切だ。結果も気になるところだが、まずは、選手たちが自分自身納得のいくレースや演技を行うことができるように願いつつ、応援することにしよう。応援の影響は、実のところ、選手に対してだけでなく、審判の判断にも及んでいるらしい。ホームタウン・アドバンテージは本当なのかといったことも含めて、興味のある方は、上記の釘原直樹教授の著書を読んでみていただきたい。

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