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2017年12月20日(水)

メンバー&専門分野紹介

日常の些細な定性情報から本質的なニーズを導く

 ここでは行動観察リフレーム本部のメンバーとその専門分野について紹介していきます。今回はマーケティングリサーチの中でも主に定性調査を専門領域にしている稲葉・山本の両名に、定性情報を扱う上での思いやこだわりについてインタビューしました。


――お二人はマーケティングリサーチに携わってどのくらいになりますか。

稲葉 裕香(以下「稲葉」):
 今の会社に来てからだと15年くらいになります。前職のときに今の会社の定性調査の方法を知って感銘を受けて、それがきっかけで入社しました。

山本 律子(以下「山本」):
 私も同じくらいです。

――これまでどういった仕事をされてきたのでしょうか。

山本:
 主にLCさん*が収集する事実データの処理や分析、LCさんに向けた研修を担当してきました。
*LCさん:定性情報の収集などに長けた生活者のネットワーク。詳しくはこちら。

稲葉:
 私はアンケートやインタビューなど様々な調査に携わっていました。今は、定性調査に携わることが多く、実調査だけでなく、調査手法の研究やブラッシュアップなども担当するようになりました。

――これまで長年マーケティングリサーチに携わる中で、どのような変化を感じますか。

稲葉:
 今でこそ定性調査が市民権を得ていますけど、それはここ10年くらいのこと。それまでは調査といえばアンケートという時代が長かったんです。定性調査という言葉自体を知らない方も多かったし、実施するにしてもインタビューぐらいでした。

山本:
 そういった中では珍しく、インタビューに限らず様々な定性調査を多数実施してきました。その中で、手法を体系化したり、クライアントの要望の変化に合わせたブラッシュアップを行ってきました。

――クライアント側の変化とはどういうものでしょうか。

稲葉:
 市場の飽和やコモディティ化によって、今までの手法を同じようにやっていても新しいニーズの発見ができなくなってきているのかなと思います。ただ、クライアントから求められることは結局「ターゲットが何を求めているのかを知って、それに合わせて自分たちが何を提供できるかを知りたい」ということ。これは変わっていないと思います。 

山本:
 以前は、例えば「スナック菓子A○○味の評価について」といった個別の商品についてのテーマが多かったのですが、次第に「スナック菓子をめぐる生活」という特定ジャンルになって、さらにカテゴリージャンルもはずれて「間食やお菓子をめぐる生活」というように変わってきています。商品の評価を把握して改善するという具体的なテーマから、新しい価値の探索といった抽象度の高いテーマへとシフトしていっていると感じます。

稲葉:
 具体的なモノがテーマだと、大きさや形、色といった視点があってそれを細分化していくので、視点としてはわかりやすい。抽象的なテーマになると、本当にさまざまな視点があるので難しいところがありますね。


――定性調査と、アンケートのような定量調査ではどういった違いがあるのでしょうか。

稲葉:
 定量調査といっても様々ありますが、一般的な定量のアンケートと比べると、定性調査は選択肢以外の情報が収集できることが特徴です。また、定量調査では相関関係はわかっても、因果関係が見えないことがありますが、因果関係にアプローチできるのも定性調査の特徴といえます。

 私は定量調査も好きなんですけどね。集計した結果を見るときはいつもワクワクします(笑)。職業病でしょうかね。仮説を検証するのも好きなんだと思います。予想した仮説通りでも、予想と違っていても楽しめます。

――情報の取り方にも様々な種類があると思いますが、何か分類はあるのでしょうか。

山本:
 例えば、インタビューのようにインタビュアーが対象者から情報を引き出すものと、日記データ・フォトレポートのように対象者自身がデータを書いてくるものとで違いがあります。

 インタビューは起点がインタビュアー側にあって、そのスキルによって事実を引き出す。日記データなどは基本的には自発的。いいデータを取るには、生活者の側にもスキルや様々な視点を持つことが求められます。より生活者視点に近い調査ともいえると思います。

稲葉:
 最近実施したプロジェクトでは、期間内にテーマに沿った出来事が発生する都度、気づきドット*に入力してもらうという方法をとりました。過去の記憶や印象に残った出来事をまとめて入力するのと比べて収集できる情報に違いが出てきます。都度記録してもらうのか、まとめて収集するのかということも重要な要素と言えそうです。
*気づきドット:現場の事実・実態から得られた気づきや解釈を、クラウド領域にストックするオリジナルスマートフォンアプリ。詳しくはこちら

――収集できる情報にどのような違いがありましたか。

山本:
 都度記録する場合、テーマをずっと頭の片隅に置いて、なにかテーマに関わることが起こったときに記録することになります。その中には、発見や驚きが小さいものも多く含まれますが、逆にその時を逃したら、もう気づけないような事実も収集できます。

 インタビューなどもそうですが、過去の記憶を引き出す調査は印象的なことは思い出せても日常的に起こった些細なことまでは思い出せないんです。

稲葉:
 例えば、生活者の兆しを捉えるというテーマなら、日常の些細なことが重要になるので、都度記録する方法のほうが向いているかもしれませんね。とはいえ、インタビューなど他の手法の方が向いているテーマもあるので、テーマに合わせた事実の収集方法を選択することが重要になります。


――実際の定性データを見せていただけますか。

稲葉:
 定性調査といっても、インタビューや日記調査など手法によって変わってきます。今回は一例として、先ほどの気づきドットで、LCさんが「コミュニケーション(モノや動物に対しても含む)」をテーマに収集したデータをお見せします。

 阪急電車の中。向かいに塾帰り風な男子高校生3人組が座った。席に着くなり二人は会話を始めたが、一人は何かを聴く準備を始めた。しかしイヤホンを差し込んだのは右耳だけ。片方の耳はオープンにしていることで、積極的に会話には加わらないが、二人のトークは耳に入るようにして、加われる様にもしているんだと思った。
 夕方6時前、私から見える位置に来て、お行儀よく座ってこちらを見ているうちの猫。私がご飯にはまだ少し早いなと猫の方を見ると、まだかと言わんばかりに両目をつぶって我慢の顔。10分後、ご飯にしようかと声を掛けると「にゃあ 」と先にエサ入れに飛んで行く。飼い主の表情や行動をよく見ていて、言葉以上に気配を感じ察する力はすごいなと思う。

――なるほど、確かに日常の些細なことでもあるんですが、何か新しい気づきにつながり そうな印象がありますね。その場では覚えていても時間がたつと忘れてしまいそうなので、他の手法ではこういうデータを得るのは難しいように思いました。これは、幾つぐらいのデータを集めるのですか。

山本:
 目的によっても異なりますが、200データくらい収集することが多いですね。

――データの質も重要かと思います。そのためのポイントはありますか。

山本:
 対象者に依頼をする際に、まずプロジェクトの目的やテーマをしっかり伝えることが重要です。そして、どのようなデータが必要かを伝えていくことになります。

 データについては、読み手にちゃんと伝わるかどうか、を重視していきます。データを読んだ人が、みんな同じ映像を思い浮かべられるのが理想で、対象者への依頼やデータの確認の際に留意しています。アンケートのフリーアンサーなどでは、意味がどちらにでもとれたり、背景がわからないような内容のものも多くあると思います。そうならないように、背景や場面の描写、その時に感じた気持ちも含めてわかるようにします。

 同じ映像を思い浮かべるということでは、例えば「外から帰ってきたときに揚げ物の油の匂いがした」というくらいならあまり共感は得られないのですが、「夕食に揚げ物を作り、子供を塾に送ったあと、帰ってきて玄関のドアをあけたら、中からもわっと油の匂いがして気持ち悪くなった」というようにすると、似たような経験の記憶を呼び覚まし、「そうそう」という共感が生まれるんです。

稲葉:
 これはプロジェクトの目的によって変わってくる部分も大きいです。例えば様々な場面を多く集めたいという場合は、一つ一つの描写より数を優先していくこともあります。

――クライアントからの反響が大きいのはどういったデータなのでしょうか。

稲葉:
 感性による違いも若干あるように感じます。私たちからみて面白いと思うことでも、あまり興味を惹かれないこともあります。ただ、これまで知らなかった事実、意外な事実がわかると、みなさまとても喜ばれます。

――このような調査の場合、対象者はどのように決めるのですか?

稲葉:
 LCさんに依頼する場合と、WEBのアンケートパネルから集める場合の両方があります。

 WEBのアンケートパネルから集める場合、さまざまな属性の方を対象に実施できるというメリットがあります。また母数が多いので、多くの方から数多く集めたいという場合に向いていますが、一人当たり多くても3つ程度になると思います。ある決まった行動の記録や、1週間の朝食について写真でとるなど、単純なものに限られる場合が多いです。

 一方LCさんの場合だと属性は限られますが、1人あたり30以上の事実データを集めることができ、頭の中で考えること、気持ちの細かい部分などを描写することができます。テーマに合わせて属性の多様性や必要とするデータ内容を検討し、対象者を選択することになります。

――収集したデータは、この後どのようにするのですか。

稲葉:
 多くの場合は、複数のデータを俯瞰して類型化をして、本質的なニーズなどを導き出します。

――類型化の方法について詳しく教えてください。

山本:
 先ほどの「コミュニケーション」についてのデータをもとに一例としてやってみますね。
まず、全ての事実データを読み込んで、その中の気持ち(どういうことに、どういう気持ちを感じているのか)が同じものがあればグルーピングし、それらを要約します。同じものがなければ無理にグルーピングすることはしません。

 そうしてできたものをさらに俯瞰して、関連しているものをグルーピングします。それらの関係性をレイアウトや矢印などで表現し、タイトルをつけます。

稲葉:
 こうやって出てきたタイトルが、本質的なニーズに繋がっていきます。また複数のタイトルをさらに俯瞰して関係性を配置することで、それぞれの関係性や構造がわかってきます。

――これは、分類とは違うのですか?

稲葉:
 「分類」の場合、まず枠組みがあって各データがどの分類に該当するか当てはめていきます。このデータはネット上のコミュニケーションについて、これはリアルなコミュニケーションについて、というように。そうすると既存の枠組みに当てはめているだけで新しい気づきはなかなか出てこないですね。

山本:
 類型化は、アンケートの集計のように自動処理はできず、一つ一つのデータを読み込む必要があります。データの数だけ時間がかかるのですが、そうしないとわからないことがあります。

――このような分析は、分析者が一人でするものですか。

山本
 基本的には3~4人程度で進めることになります。グルーピングや、要約・タイトルの文章などをメンバー全員で合議しながら進めていきます。

稲葉:
 そのときのメンバーなどによって解釈も変わってくるので、アウトプットに1つの正解というものはないです。ただ納得感は重要なので、複数の視点で合議して、より納得感のある分析をしていくことが重要なのではないかと思います。

――なるほど、正解がないとなると、メンバーの経験によっても大きく出来栄えが左右されそうですね。それでは、ご自身の思う定性データやその分析の魅力について教えていただけますか。

山本:
 日常の中での、とても些細なこと。そのひとつひとつの事実・気持ちを読み込み「どうして、そうするのだろう?どうして、そう思うのだろう?」と考え、「あ、これか!」とわかったときに、納得感とともに面白さを感じます。

稲葉:
 定性データを分析することでそれぞれのあり方に焦点をあてて仮説を発見していくことができます。そういった新しい仮説発見のワクワクがあります。また今回紹介したような調査では、文字だけで伝えることの魅力を感じます。もちろんビジュアルがあると理解が深まるけど、テキストだからこそイメージが広がって、仮説が立てやすいということもあると思うんです。映画と読書の違いにも似ているかもしれません。

――それでは、最後に一言お願いします。

山本:
 日々の些細な事実があって、人はこんなにもいろんなことを感じている、ということはすごく面白いこと。それをクライアントにも伝えていきたいと思います。

稲葉:
 マーケティングという目線では対象者を商品・サービスのターゲットとして見てしまいがちです。でも、それは人のある側面だけしか見ていないんじゃないかと思います。

 商品とは一見関係のないような些細な事実がほとんどで、人はその中で様々なことを感じたり考えたりしている。そういうリアルな事実にこそ本質的なニーズや兆しが潜んでいて、それらをとらえることが今後も求められてくると感じています。



 以上、いかがでしたでしょうか。本記事や、記事内で紹介している調査内容などについて、ご感想・ご要望などございましたらお気軽にお寄せください。お問い合わせはこちら。

 

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